「谷誠・藤本将光・勝山正則・小島永裕・細田育広・小杉賢一朗・小杉緑子・中村正:土壌喪失をともなう森林攪乱が降雨流出応答に及ぼす影響に関する地質ごとの流出機構に基づく評価、水利科学64(6), 105-148。」の紹介

 森林伐採による流量変化の影響は多くありますが、里山で行われてきたような伐採の繰り返しや落葉の採取など、森林長期利用によって土壌が変化してきたことによる流量の変化を推定した研究はごく少ないです。というのは、そもそも土壌が変化するのには長い年月がかかりますし、土壌状態が大きく異なる手頃な流域があったとしても、雨量その他の気象条件や地質条件が同じでなければ、流量を比較しても土壌条件の影響だとは言いにくいからです。
 ある小流域の伐採の影響を調べるには、気象・地質条件がほとんど同じであるような隣の小流域では伐採を行わないことで、この流域を基準にする「対照流域法」という手法が用いられるのですが、土壌変化の影響を調べるには、そういう比較手法が採用しにくいです。
 そこで、この論文では、花崗岩地質の小流域4つ、堆積岩地質の小流域3つの観測データにHYCYMODELという流出モデルを適用することにより、各小流域において、雨量などの気象条件が仮に同じであった場合、流量がどのように異なるのか、という観点から土壌変化の影響を解析する方法を採用しています。

 花崗岩は土壌が砂質で侵食されやすいので、過去にははげ山が広がっていたのですが、本論文では、このはげ山小流域(裸地谷流域)をも解析対象としています。当然、はげ山では森林でおおわれた山に比べて降雨時の流量ピークが高いのですが、斜面にテラスを作って盛り土をして植樹する緑化工事を実施した小流域(若女流域)では流量ピークは低く、お寺の境内にあって成熟林が維持された小流域(不動寺二次谷流域)に比べて流量変化はあまり変わりませんでした。花崗岩山地でのはげ山緑化の重要性わかるとともに、砂質土壌では森林土壌の成熟による流量変化が意外に小さいことも感じられます。
 堆積岩山地と花崗岩山地の森林におおわれている小流域を比較すると、堆積岩小流域は大雨の場合の流量ピークが大きく、雨が降らない日照りの場合に流量が小さくなってしまいます。この結果は、土壌ではなくその下にある岩盤の性質が地質によって異なる「花崗岩山地では非常に風化した岩盤において水貯留の大きな変動が期待できるのですが、堆積岩山地は岩盤が固く貯留変動が少ない」ために生じます。しかし、堆積岩山地でも、森林土壌が成立している信楽B・C流域に比べて土壌が粘土質である竜ノ口山北谷流域では、降雨時の流量ピークがより大きく、日照りの場合の流量がより小さく、変動幅が大きくなっていました。土壌層における水貯留の変動が流量変化に対して大きな役割をもつことがわかります。

 信楽と竜ノ口山とでは場所が離れており、竜ノ口山が瀬戸内の少雨気候であって、森林利用以外の要因も流量の違いにかかわっていると考えられますので、現時点では、研究結果を広く応用することはできないと思います。しかし、侵食によって土壌が失われると洪水・渇水が起こりやすくなることから、長期森林管理の土壌変化をともなう流量への影響を検討する必要があります。そのために本論文が貢献できれば、と思っております。

 なお、この論文は、下記の英文論文の谷誠による翻訳です。Tani M, Fujimoto M, Katsuyama M, Kojima N, Hosoda I, Kosugi K, Kosugi Y, Nakamura S: Predicting the dependencies of rainfall-runoff responses on human forest disturbances with soil loss based on the runoff mechanisms in granitic and sedimentary-rock mountains, Hydrological Processes 26, 809-826, DOI: 10.1002/hyp.8295, 2012.