環境問題における現状維持のたいせつさ

 山地災害を根絶することは不可能である。どのようにして被害を少なくするかを考えなければならないため、公共事業において、堤防やダムや砂防ダムのような防災設備を設置すること、水源山地の森林を整備すること、さらには発生が予測される場合に早めに避難することなどが求められる。加えて、急斜面の直下や渓流が山地から平地に出てくる付近など比較的被害発生可能性が高いところに住宅地に利用しないような、都市や農村の整備計画も望まれる。要するに、災害対策とは、防災設備の増強だけに終わるべきでなく、社会における住み方、生き方をどうしたらいいか、という問題と密接につながっている。戦争やウィルス感染などと同様、災害に遭った場合には、生活全般が危機に陥ってしまうから、せめて生命を守ることを優先する事態に直面する。通常時にも、その事態を認識した上で広く対策を考えることが重要である。

 降雨規模は超過確率年を長くするほど大きくなり、それは地球活動に基づく変動なので、災害発生を皆無にすることは不可能である。一方、人間が生活の場、食料、生活資材を獲得するためには、都市・農地の開発はもちろん、山地森林も木材等に利用せざるを得ないから、自然の開発が避けられない。人間と自然との相互作用の中に自然災害の発生が位置づけられるわけである。とくに山地源流域をおおう森林状態は、人間が手を付けない原生林状態のときにレジリエンスが高いので、斜面上の土壌の崩壊を抑止して土壌層を長く発達・維持させる効果は原生林で高く、里山、人工林、はげ山の順に低下する。災害抑止効果と森林利用とはトレードオフに関係にある。これが原則である。

 温暖化による豪雨規模の増大が指摘されているが、こうした人為活動による気候変動は、化石燃料の使用や自然開発からもたらされたものである。人間活動をさらに拡大させてゆくと生態系のレジリエンスが現在よりも低下し、豪雨規模が増大して防災対策が追いつかなくなる。自然利用と防災の両立は困難であることを十分認識し、現在よりも災害を減らすことに固執せず、むしろ、災害をさらに増加させずに現状を維持するための対策を、社会全体での計画において検討すべきである。具体的には、防災対策のために、防災設備を増やす以外の方策を重視し、温暖化の抑制、過密と過疎の進行する現状を見直した地域計画などを、減災の観点から検討すべきであることを提案したい。

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