山くずれ・土石流による土砂災害発生とその後の森林・土壌の再生

 大雨のとき、山腹斜面の土壌層やもろくなった岩盤がくずれたり、それをきっかけに土石流が流れたりして、悲惨な土砂災害が起こることがあります。土砂や石といっしょに樹木も流れてきますから、樹木の根の力では山くずれを防ぐことはできないのだなあ、と実感します。そうすると、毎年あちこちで山がくずれてゆき、しまいに山に森林がなくなってしまうのでしょうか。さすがにそんなことはないですね。鹿児島大学の下川悦郎先生と松本舞恵さんの調査によると、徐々に岩盤が風化して土の粒子が作られ、けわしい斜面でも森林と土壌層はひとりでに復活再生することがわかっています。山地斜面では、土壌層の発達と崩壊が1000年の時間スケールで、図に示すように繰り返されているのです。
 急斜面で土壌層が再生するのに200年以上もかかるのは、作られた土の粒子が雨水によって流されて樹木が成長できないからで、樹木の生きる力と雨水の侵食力の争いが続くからなのですが、ついには、まわりの森林からのタネや土の供給を受けることで樹木の生きる力が侵食力に打ち克って森林が再生します。その後は長く山くずれは起こらず、森林を乗せた土壌層は安定します。しかし、いつか大雨があると土壌層が地下水で満たされて、再び山くずれが起こります。そうした山くずれは長雨後にとくに強い雨があったときに起こることが多いです。その理由は、地下水面が地表付近まで急に上がって浮力が生じ、土の粒子のまさつ力と樹木の根の力では土壌層がすべりのを止められなくなるからなのです。

はげ山では、毎年土が流れ出て山くずれはおきない

 それにしても、1000年の間には、大雨が何度もあるのになぜ山くずれが起きないのか、不思議ではないでしょうか。それは、山くずれの後地表面を流れていた雨水が土壌層再生後も、その中の水みちを伝って地下水が排水され、滅多に地下水面が上がらないからだと考えられます。その排水が川に流れて流量ピークを作り出すのです。1000年に一度山くずれを起こす原因は大雨であり、そのときは土もいっしょに流れてきますが、山くずれが起こらない1000年ほどの間は、土壌層は静止していて土は流れず、水だけが流れてきます。あたりまえのことのようですが、こうしたあたりまえは、森林が根で土壌を固定しているから起こることです。森林のないはげ山での調査をもとに考えてみましょう。

 石油が使えるようになった1960年頃より前は、たきぎを集めて、ご飯を炊いたり、お風呂にはいったり、寒さをしのいだりしていました。ですから、里山の林は今から見ると貧弱でしたし、粘土分が少ない流されやすい砂でできている花崗岩の山には、図に示すように、土壌がすっかりなくなったはげ山が広がっていました。はげ山斜面では、毎年、冬季に霜柱ができそれが融けたときに、岩盤から土の粒子が浮き上がって、雨によってすぐに流されてしまいます。森林で囲まれている山くずれ跡とは違って斜面全体に樹木がないため、樹木は侵食力との競争に勝てないのです。 

森林は斜面土壌層を長く安定させるが、山くずれがなくなるのではない

 山腹斜面に土壌が乗っていてそこに樹木が生育して森林が成立すると思っておられるのではないでしょうか。でも、実は、森林がなかったら土壌層ができないわけで、森林と土壌層は一体の生態系であることがわかります。その結果、1000年程度のあいだ土壌層がくずれないからこそ、山際に家を建てて住めるのですが、森林によって土壌層が作られるからこそ、1000年に一度は山くずれが起きるとも言えます。急斜面の上では、森林と土壌層はタマゴとニワトリの関係にあるのです。
 そう考えると、土砂災害による死者を出さないためには、山際や山から出てくる沢の出口は土砂害の被害を受けやすいことをよく認識して、早めに避難することがいかに重要かということがわかります。裏山の森林が立派だから、砂防ダム治山ダムがあるからといって、土砂災害が起こらない、と過信してはならないわけです。それでも山際や沢の出口から少しでも離れて家を建てることなども重要ではないかと、私は思っています。