御用聞き政治を支える基盤構造

 自民党内の政局的な争いは、80を超えた老獪な森喜朗、麻生太郎、二階俊博各氏を中心に、菅義偉氏以下の面々が足の引っ張り合いをしているようにみえます。これは、現在の岸田政権崩壊の危機にあっても維持されているように思います。どうしてそんなコップの中の争いにいそしむことができるのでしょうか。
 安倍晋三氏が殺害されて統一教会との癒着が問題になったとき、二階氏は、「電報を打てと言われれば打つ。商売人が応援してくれる人には毎度ありがとうというのと一緒だ」と御用聞き政治家の本領を発揮しましたが、「自民党はびくともしない」ともうそぶきました。今回の派閥の金の問題は、御用聞き政治が自民党全体の前提となっていることをはっきり示していますが、私は、頭のすげ替えさえすれば安泰だと彼ら自民党首脳が安心できる、その国の支配構造を支える「最悪というべき」基盤に注目することが重要だと考えています。
 2009年に民主党政権ができたとき、米国に従属した防衛政策の見直しとして普天間の県外移設が鳩山由紀夫氏によって主張されましたが、外務省によって完全に潰されました。また、私の専門である水文学の分野でいえば、八ッ場や大戸川などのダムの見直しが掲げられましたが、国交省によって強力な抵抗を受け中止にはならず、工事継続となりました(注1)。政権を誰が担おうと、戦後築きあげられてきた米国・自民党・行政官庁・財界の連携による基盤的支配構造は非常に強固であり、御用聞き政治家はその前提で政局を泳いでいる、そういう動きは改善しませんでした。安倍政権はこの構造をより悪化させてしまいました。
 ですから、残念ながら、政局の争いはよほどのことがないかぎりその基盤にある強固な支配構造を揺るがすことがないと思われます。どうしたらいいのか、おそらく、国民の多くが、政治と金の腐敗政治に怒りを持ち、検察による大物政治家の刑事告訴といった表面的な事件によって留飲を下げるのではなく、その基盤構造を認識共有することが必要なのではないかと思います。自民党は「悪夢の民主党政治」というようなキャッチフレーズで、この最悪の構造の改善を断固として防いできました。今回の岸田政権の崩壊が「岸田が辞めて〇〇が引き継いで次の選挙に勝って安泰」というような「びくともしない」流れになるおそれがあります。厳しい監視が必要です。
 拙著「矛盾の水害対策」では、治水の問題を超えて、根強い基盤構造についても考察しております。
**注1:河川官僚OBで参議院議員である足立敏之氏の次の発言は、基盤構造の盤石さをよく表しています。「民主党政権下では,反対の立場の人が色々と横槍を入れてきて,なかなか着工まで行きつけなかった。焦ってやってもうまくいかないので,慎重にいくというのが太田大臣の方針でした。大臣室では,『足立、分かっているだろうな、八ッ場ダムは相撲で言う、すり足で行け。一歩一歩着実に進めて行くんだ。無理に一気に前へ出たりするな。慎重に、慎重に』と言われ続けました。」