日本もウクライナのようになるのだろうか
鮫島浩さんの「米国の覇権を守るために犠牲となるウクライナと日本〜白井聡さん、中島岳志さんの論考から岸田外交を考える(Samejima Times 2023/1/29)」を読みましたので、感想を述べたいと思います。その中で引用されている白井さんの「日本国民全体の従属する対象が、戦前の天皇から戦後の米国に移行した」との指摘は、その通りだと思います。しかし、なぜそうなのかという点で、ウクライナなど外国国民と日本国民の違いがある考えます。
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たしかに、戦争による悲惨さは、第二次世界大戦時における、1000万の死者を出した独ソ戦争も日本にからむ国内とアジアの戦争被害も、どちらも巨大なものです。
しかし、欧州や中国における大陸内の民族の殺し合いの伝統を受け継ぐ国民には、他の周辺民族を標的とした根っからの敵対意識が生まれざるを得ず、自己の民族の団結によって他の民族と戦う深層心理のようなものが醸成されていると思います。欧州などの大陸においては、平時には我慢するが、何かあったら民族意思が高まり、互いに戦い、結果的に多くの人命が失われるという、不幸な歴史を繰り返してきました。
ロシアのウクライナ侵攻も、科学による武器の高度化(核・ミサイル・ドローンetc)による第三次世界大戦への効きをはらむとはいえ、伝統的な民族対立の延長に起因している、と私は理解しています。
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一方、日本の場合、戦国・江戸時代には民族対立に似た対立があったかと思われますが、明治以降は、大きく変わったと思います。欧州の植民地主義との対抗上、日本国内の統合と同時に欧州類似の民族対立的意識を醸成するために、伝統的な天皇制を最大限利用した、人工的作為的な国民教育を推進してきました。
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結果的に、欧州では、周辺民族との紛争の繰り返しによる国民の対立意識がまず先で、それを基に国家間の戦争が始まるので、政権はそれを活かすことができない場合に国民からの支持を失うとの危機意識を持つ構造が普通です。しかし、日本では、明治以降の政府が植民地主義の欧州国家との対抗に基づき、周辺の中国・朝鮮・アジアへの侵攻を政府が国民に教育によって強制して進めるというように戦前の歴史が進みました。国民からの下からの突き上げが希薄と言えます。
言い換えますと、欧州では、根深い他民族への国民の恨みに政権がひきずられ、国民と政権の間に緊張関係が生じます。だからこそ、この悲惨な戦争の歴史に懲りたことで、EUのような共同体が志向できたのではないか、と思います。これに対して日本では、政権が他民族への憎しみを国民に植え付けて戦争を戦いました。1945年に負けたわけですが、天皇はそのまま日本国民に支持され続けました。
欧州の国民には「殺し殺される紛争の繰り返しを通じて積み重ねられた周辺民族への恨み」が自然に醸成されているのですが、日本での周辺民族への差別意識は、自然発生したものではなく、政権による教育勅語などの教育課程で植え付けられたものだと考えられます。
ですから、日本で特徴的なことは、国民に外国に対する恨み意識が政権とつながったものでしかないため、国民と政権の間に緊張関係が発生しないところにあると思われます。白井さんの言うように、たしかに政権のうえにある権威が、天皇から米国に代わりましたが、国民の従順さは持続しました。
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日本の外国との違いはここを参照
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ウクライナとの比較から、もう少し考えてみます。
ゼレンスキーの強硬な対ロシア戦争鼓舞政策は、国民のロシアに対する恨みに基づいて、言わば自然に打ち出されているのではないか、と思います。ロシアへの降伏は政権崩壊につながる危機意識があると推測されます。
これに対して、日本なら、起こり得る中米対立による戦争に対してどういう対応が為されるでしょうか。国民の一部には中国人への差別意識はたしかにあるでしょうが、いざ戦闘になった場合、政権は中国との戦闘を維持できず、国民もそれを望まないでしょう。ウクライナ人のロシアに対する怨嗟はない、と思われます。日本は島国で、食料自給もエネルギー自給もできず、海外からの輸入に頼るしかないので、輸送船への攻撃によって、ただちに供給不能になると予想されます。戦後の高度成長期1960年頃から、農業を必死で維持する政策がとられず、化石燃料と原発への依存を進めてきた政策の過ちのつけ、これがここへきて顕在化することになります。
食べるものがなくなり、燃料にも事欠いて、自衛隊の戦闘力はなくなり、国民は窮乏生活を強いられ、無条件降伏に至るしかなくなるでしょう。
既得利権護持の政権には外交戦略がないのでなすすべもなく戦闘に巻き込まれます。そして、コロナ対応で明らかなように、危機対応能力はゼロですから、統治能力の完全破綻に追い込まれます。また、政治に絶望してじっと耐える若者に戦闘意欲はありません。戦前の政治家なら、天皇陛下のために飢えても精神力で戦え、と叫びましたが、現在、惨禍の中、そんな元気が持続する政治家は皆無でしょう。
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したがって、鮫島さんの危機感には同感しますが、ウクライナのようにはならない、もっとずっと悲惨だろうと、予想します。