能登半島地震を受けて、地震国で原発が安全でないことが明確になりました。推進派も危険性を熟知しているのですが、「王様は裸だとわかっているのにそうは言えない矛盾」を抱えています。詳しくは別紙!
新刊 矛盾の水害対策
公共事業のゆがみを川と森と人のいとなみからただす
中島岳志先生推薦
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要旨はここ、紹介動画はここにあります
土壌の保水力は大雨でも発揮され続ける
山地斜面をおおう森林土壌がもつ河川流量のピークを低くする洪水緩和機能は、大雨でも発揮されていることがわかってきました。この緑のダムも人工のダムの機能と同じく過信することはできませんが、科学的な理解をきちんとふまえて水害に立ち向かうことがたいせつです。緑のダムによる流量ピーク低下機能が大雨でも発揮し続けるのは、土壌層が地下水で飽和せず、雨水の鉛直浸透が続くからなのです。
国土交通省や河川工学の研究者は、乾燥した土壌が雨水を吸収してぬれることでもたらされる、洪水として川へ流れ出る総流量が総雨量よりも小さくなる「乾燥土壌の保水力」しか、緑のダムの機能として認めておらず、河川氾濫をもたらすような大雨の場合には、土壌の保水力が無視できると考えているようです(国交省のホームページ参照)。
しかし、これは土壌の効果の片面しか見ていません。長雨で土壌が湿潤になっても、川へ流れるピーク流量を緩和する効果は発揮し続け、これは「湿潤土壌の保水力」として評価できます(「矛盾の水害対策」の第6章のP188~200参照)。
簡単な解説、詳しい解説(造園学会からの依頼解説)、学術誌における解説、英語の学術論文があります。
また、この森林土壌の機能を取り入れた物理的流出モデルを開発しました。学術誌論文を掲載します(Paper tlanslated to English and discussion with Keith Beven are available)。
縮小社会第7号:入澤仁美医学博士追悼記念号
縮小社会研究会(ホームページ)では、生殖補助医療倫理性の研究、ベリーダンスによる心のケアなどで広く活躍しながら、37歳の若さで亡くなられた、入澤仁美会員の生前の活躍紹介・遺稿、恩師・会員の追悼文を掲載した「縮小社会第7号:入澤仁美医学博士追悼記念号」を発行しました。 目次・執筆者紹介・編集後記を載せますので、ご希望の方は縮小社会研究会 jimukyoku@shukusho.org、
または小生 tanimakoto@nike.eonet.ne.jp にご連絡ください。なお、メモリアルホームページもご訪問ください。
都市の酷暑を緩和する樹林の効果
都市の中の樹林の伐採が問題になっており、私は、東京神宮外苑の再開発や京都北山の植物園付近の再開発に反対しています。樹林を広げ、人口を分散する方向が(食料自給や防衛にとっても)必要なのに、反対に、樹林帯縮小での再開発や首都圏への高速移動(リニアや高速道路)が発展だとする「わが国の時代錯誤」を逆転させなければならないと思います。「なからぎの森18号」に意見(記事はここ)を書き、集まりで講演(スライドはここ)をしましたので、ぜひご覧ください。
さて、都市での樹林の酷暑緩和効果は、次のふたつに分けられます。
1) 皇居や植物園など、大規模面積の森林や河川・湖があることで、日射エネルギーの多くが植物の蒸散や水面からの蒸発に使われ、大気加熱を抑制するクールアイランド効果
2) 上からの直接の日射と地面からの日射の反射の両方でからだの表面の温度を上げる(要するに異常に暑くなる)ことを、小規模な樹林などの日陰によって緩和する効果
1)は面積が大きいことが重要ですから、現状でも少ない都市林を減らすことは避けるべきです。晴れた日は、右図のように、森林では日射の大半が植物の蒸散(光合成にともなう気孔からの蒸発)による潜熱(気化熱)に使われます。その分だけ大気加熱が大きく抑制され、地上気温の上昇を抑えます。こうして水蒸気に吸収された潜熱は、上空で雲(水粒や氷粒)になる時に放出され、大気循環・水循環を活発化させます。
2)は局所的な日傘のようなもので、これも人間の快適さにとっては(犬や猫にとっても)大切です。また、反射は色の白いものほど大きいので(新雪は反射率が大きいのでサングラスをかけるのです)、白いコンクリートの上での体の表面温度は気温よりもずっと高くなります。
森林と水 木は長生きだから・・・
森林には豪雨災害を防ぐ機能や地球環境を守る機能が期待されています。 こうした森林生態系の人間社会に及ぼす影響がなぜ生まれるのか」について考えます。森林には樹木が必ず含まれますが、その「長生き」の性質こそがこうした機能を生み出します。人間への影響は、そのいわば「副産物」に過ぎないのです。スライド参照
大雨と山くずれ 必ず起こるがめったに起きない・・・
2022年9月4日に水文・水資源学会で発表
降りはじめからの雨量が200mmを超え、その後に強い雨があると山くずれが発生し始めることがわかっており、気象庁が住民に警戒避難を呼びかける「土壌雨量指標」はこれをふまえています。しかし、一回の大雨において多数の斜面の中でくずれるのはごく一部ですから、あるひとつの斜面は、最低でも500年くらいは、何度も起こる大雨に耐えて安定を保ちます(何千年もくずれない斜面もあるようです)。
急斜面上の土壌層は樹木の根のネットワークの補強によってすべらずに持ちこたえているのですが、大雨の時にくずれるのは、地下水面が上昇して浮力が大きくなり、まさつ力が減って不安定になるからです。天気予報でよく聞く「降り続く雨で地盤がゆるんでいるので土砂災害に注意してください」は、主にこのメカニズムに基づいています。ですから、長く土壌層がくずれないためには、土壌層内の地下水の排水がたいへん重要なはたらきをするのです。
山くずれは、右の写真のように、山ひだのような凹地形の水の集まる場所で起こり、そこから土石流が流れ出す場合が多いです(なお、渓流の奥にはいくつも急斜面があるので、ひとつのくずれが500年に1回でも沢の出口が土石流に襲われる頻度は高くなり、大変危険です)。くずれが起こると土壌層の下の基盤岩がむき出しになり、降雨時には基盤岩のくぼんだ場所に沿って表面流が流れます。水流の侵食力と草や木の生命力の競争が長く繰り返されるわけですが、数十年から百年もすると樹木の根が太くなることでようやく土が流されずに固定され、斜面に土壌層と森林が復活してくるようになります。ただ、大雨があると凹地形のところに水流はいつまでも集まり続けるので、土壌層内にパイプような水みちが残されると推測されます。
結局、土壌層が山崩れ長期間かかって再生されるため、その長い時間の間に、土壌層内にはパイプのような「速やかに地下水を排水する水みち構造」ができあがり、大雨でも土壌層がくずれず500年以上も安定を保つようになると考えられます。
以上のことから、斜面の水の集まりやすい部分には、土壌層もしくは風化した基盤岩の中に長い年月をかけて自然に排水構造ができていると考えられます(人工的に積まれた盛り土は、効率的な排水が困難なため、熱海で2021年に発生した土石流災害でわかるように、くずれやすく危険です)。大雨があっても速やかな排水によって地下水面が上昇せず、浮力が大きくならず、土壌層はくずれず安定を保ちます。結果的に、雨水は地下水に遮られることなく鉛直方向(真下のことです)に浸透できます。逆に言えば、このメカニズムによって土壌層はたしかに長く安定を保てるのだけれど、500年から数千年に一度は、大雨時に地下水面が上昇して浮力が大きくなり、土壌層は崩壊するということでもあります。
森林の水消費が大きいことはなぜ重要なのか
樹木は日照りにも葉の気孔を開けて光合成と蒸散を続けるので、小規模の森林伐採は河川流量を増やします。ところが、大規模な伐採は、大気への水蒸気供給を減らしてしまうので、内陸の雨量を減らして乾燥気候をもたらします。なので、地球規模の水資源問題は、森林管理と強くつながっているのです(「森林と水」のスライド参照)。